序章「思い出」
出会ったのは、偶然だった。
再会したのも、偶然だった。
……そう、思ってた……。
けれど全ては。
運命だった。
おそらく、生まれる前からの。
でも、それは決して嫌なものではない。
例え、それが。
誰かの掌で踊らされたことだったとしても。
抗うつもりなどない。
誰かの思惑だったところで。
その運命が、幸せならば。
何故、抗う必要などがあるだろう。
――久しぶりだね、梅流。
笑顔と共に告げられた言の葉は、とても優しかった。
そして、懐かしかった。
初めて出会ったのは、もうかなり前のことで。
でも決して忘れてはいなかった。
向こうも覚えていてくれて、嬉しかった。
それから、しばらく一緒にいられることも、嬉しかった。
……そんな想いをした、多分子供の頃で、一番「楽しかった」と思えたのは。
随分、昔のことだ。
ほんの僅か。
ほんの数日の記憶。
それでも、子供時分の思い出で……何よりも、大切な時間だった。
***
「……る……梅流。梅流?」
呼ばれて、ふっと意識が浮上する。
知らず、眠っていたらしい。
もし此処がベッドであれば、彼も起こしはしなかっただろう。
だが、ここはガラスのはまっていない開いた窓際のソファで。
しかも今夜は冷え込む。
寝かしたままでは、風邪をひいてしまう。
かといって、眠らせたままベッドへ運ぶのも躊躇われたのは……今宵の星が、あまりにも綺麗だったから。
そして、この星を見たいといったのは、何よりも梅流自身だったから。
「あ、蔵馬。私、寝ちゃってた?」
「ちょっとだけね。うたた寝程度かな……何か寝言言ってたけど」
「ヤダっ! 変なこと?」
「『また会えたね』って……俺の名前呼んでた」
にっこり笑う彼に、梅流は少し赤くなって、夢のことをゆっくりと思い出した。
そう、見ていたあれは……。
「子供の頃の夢だったの。蔵馬に会った日のこと」
「初対面の時?」
「ううん。二度目の時。私のお父さんが具合悪くなって……」
「ああ、あの時の……」
細かなところまでは、お互いに話さない。
無理もない。
何せ、彼らが二度目に出会ったあの村は……。
それでも梅流にとって、かの村は忘れたくない場所だった。
だって、あの時本当に……。
「……あのね、蔵馬」
「ん? 何?」
「私、本当に嬉しかったんだよ……あの日、蔵馬にまた会えて。後になってからも、いっぱいいっぱい思ったよ。あの日会えてよかったって……」
「梅流…」
「だって、あの後、一緒に冒険しなかったら……蔵馬。連れて行ってくれなかったでしょう?」
「……さてね」
はぐらかすように笑う。
肯定も否定もしない。
普段から考えが読めない彼だけど、こういう時には特に分からない。
「もう、蔵馬!」
「『過ぎたことが起こらなかった場合』、それは分からないけど」
言いながら、ぽんっと梅流の肩に手を回す。
「今、俺はこうすることが出来て、幸せだよ。だから……俺も、あの日梅流に会えてよかった」
「蔵馬……」
「……どうにかならないのかな、あの万年バカップル」
星空を見ているようで、9割方、お互いしか見ていない2人。
そんな彼らの背後……廊下の柱の向こうから、ため息混じりに見やる2つの影。
その1つが、げんなりとした声で言った。
「なるなら、とっくになっているだろう。今更何をしても無駄だ……」
先の影よりも、少しばかり背の高い影が、こちらも大きなため息と共に応えた。
最初の声の主は、白銀の髪を持つ少年。
後の声の主は、金髪の少女……のように見えた。
あまり顔かたちは似ていない彼らだが、実は兄弟で、しかも双子だった。
そして2人の親は、目前でラブラブやっている紅髪の青年と、黒髪の少女。
青年の名は、蔵馬。
少女の名は、梅流。
とてもこの年齢の子がいるようには見えないくらいの若さだが、間違いなく、2人は彼らの子だった。
その秘密を語るには、およそ10数年の時を遡る必要があった……。
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