サボテン <著者:西森 朝麻サマ>
1
明日の昼には最後に注文した品物のサボテンが届く予定だ。
これが届けば全て完成する・・・そう思って南野梅流は室内を見回した。
結婚一年目。夫の南野秀一はおとといから出張で出かけたきりだ。
帰るのはたぶん明後日だろう。
秀一のいない日は梅流にとってとてもつまらない時間だった。
そんな時最近ガーデニングが流行っているというのをテレビで知り、秀一の
いない時間自分の家を植物でいっぱいにして気をまぎらわそうと梅流は考えた。
幸い秀一も植物は大好きだ。帰宅した時、部屋が緑でいっぱいだったらきっと
彼は喜ぶだろう。否、ジャングルになっていても熱帯雨林かしていようが絶対
に彼は喜ぶ。梅流には確信があった。急に秀一のいない時間が輝いて感じた。
今のうちに部屋を緑でいっぱいにして秀一を喜ばせなきゃ!梅流は使命感で
いっぱいだった。
その日から近くの農園や植物園からありったけの鉢植えや、観葉植物を買っ
て部屋に並べる日々が続いた。思っていた以上にその作業は楽しく、部屋もみ
るみるうちに緑でいっぱいになった。植物との調和がとれた美しい部屋だ。
残るはただひとつ明日のサボテンが届くのを待つだけだ。
2
次の日の昼下がり梅流の待ちに待ったサボテンが届く。ピンポーン
インターホンが鳴った。梅流は大喜びでドアを開けた。
「はーい。」
ドアを開けるとオヤジが立っていた。手には注文したサボテンを持っている。
「素敵な配達員のおじさん、どうもありがとう。」
梅流は唄うように言った。
そしてサボテンを受け取ろうと手を延ばした。代金は支払い済みだ。
その瞬間、オヤジの手が梅流の手首をつかんだ。すごい力だった。
「わー」
梅流は叫んだ。シャウトした。サボテンが床に転がった。
そのままオヤジは梅流の上にのしかかってきた。梅流!ピンチだ!!
3
その時!秀一が梅流のピンチを察知して部屋に飛び込んできた。
「梅ーーーーーーー流ーーーーーーーーー!!」
「秀ちゃん」
オヤジは驚いて逃げようとした。・・・がその時部屋中の植物達が
いっせいにオヤジに向かっておそいかかった。
「バカ」
梅流がそれに向かって言った。
「変な奴め。」
秀一がつぶやいた。
「ありがとう、ダーリン。助けてくれて。」
梅流が秀一によりそう。
「お前の苦しみは俺の苦しみなのさ、かわいい奴め・・・。」
そうして二人は植物に囲まれた素敵な部屋の中で寄り添った。
日はもう傾きかけている。
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