眠り姫 <著者:樋口 杏サマ>
朝の光が窓から差し込む。
その光を顔に感じて、オレは目を覚ました。寝転がったままベッ
ドから窓の外を見上げる。
そこから見えるのは、まだ夜の色を残した空。微妙に白っぽい青。
起きて窓から身を乗り出し、東の方を見るとまだまだ淡い赤が残る。
今日もいい天気になりそうだな。
強くなりそうな日差しの予感。
しかし、まだこの時間だと吹く風は冷たい。
窓を大きく開けて深呼吸した。
眠れずに、この時間を迎えたこともある。
そんなときは、明け方の眩しさに目がくらんだ。
目をあけていられなくて・・・。
自分の中に潜む闇が、ライトアップされるようで。
ここにいてもいいのだろうか?
オレは本当は妖怪なのに?
周りの人を騙してここに留まることが許されるのか?
そんな悩みも、今となってしまえば些細なことに思える。
今のオレには、全てを知って側にいてくれているがいるから。
梅流という居場所があるから。いつだって強く在れる。
ふっと笑んだその時、後ろで寝返りを打つ気配がした。
振り返ると、今なお眠る梅流の後ろ姿が見える。
部屋に吹き込む風が、カーテンをさわさわと揺らした。
・・・そして、梅流の髪もふわふわと揺れる。
窓辺から離れて、梅流の側へ。
顔に掛かった前髪をそっと払い、あどけない寝顔を見つめた。
本当は寝顔を見ていたなんてことが梅流にばれると
あとで叱られてしまうんだけど・・・。
だけど、オレはどんな表情だって見ていたい。
寝顔は、どんな人間でも「表情を作る」ってことができない。
だから、もっともその人らしい表情を見ることが出来る。
梅流の寝顔は、あどけなくて・・・オレが眠っている。
梅流の手に自分の手を添えると、口元に笑みが広がるんだ。
わずかな・・・微かな笑み。だけど、オレがうぬぼれるには十分な微笑み。
オレの視線に気付いたのか、梅流のまぶたが震えた。
梅流の頬に手を当てて、オレは耳元で囁く。
「愛してる・・・オレの眠り姫・・・」
そして優しく梅流の唇にキスをした。
優しく、唇がほんの少し触れ合うくらいの軽いキスを。
梅流のまぶたがゆっくりと開く。
梅流の瞳にオレが映る。
照れたような梅流が、はにかんだように笑い、そしてオレに抱きついた。
「おはよう、蔵馬」
また、一日が始まる。
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