♪music on / off → music by "bench time"



海音の優しさ <著者:海里 凌サマ>

*-ーーー-*

「……梅流」
  静かな、海沿いの歩道。
  ホント、たまに、人が車が通る程度だ。
 冬の所為もあるのだろう。
 海の音色が。
 ひどく、澄んで響く。
「……ん」
 後ろにいる蔵馬には振り返らず、海を見つめたまま、梅流は呼びかけにそれだけ返した。
  そんな梅流に少し、溜め息をついて。
 波音しか聴こえない中、
  ーーーザッ

  蔵馬は梅流を、後ろから抱き締めた。
「☆」
  梅流が、一瞬びっくりしたのが判った。
「……何があったの?」
「………」
「………」
  きいても応えない梅流を、自分のコートの中に招き入れる。
「ほえっ☆」
  梅流は、そんな彼に慌てはしたが、抵抗はしなかった。
  蔵馬は静かな落ち着いた声で、言葉を紡ぐ。
「何があって落ち込んでるのかは、無理にきかない」「………」

 ーーーザザッ
「けれど」
 静かに、波音が揺れる。

「俺の前でまで、我慢しないで」

  ーーーザッ

「泣いてもいいんだよ? 涙、……。零して、いいんだよ」
  ーーーザザッ


「いま、ここには…俺しかいないから」
  ーーーザンッ

  彼の声が、ひどくやさしく聴こえた。
  目の前の海の波のように。
  こんな彼の想いを、どう受けとめたらいいのか。どう応えたらいいのか。  
  判らない。
  ただ。
  涙がこぼれてきた。
  そんな梅流を、包み抱き締める。
  何も言わずに。
  ただ、優しく。ぬくもりが伝わるように。


  梅流が、安心するように。

                      〜END〜




 


Copyright (C) KOHAKU All Rights Reserved