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Dear.. <著者:要 桜羅サマ>

「秀一も、もうそんな歳になったのネェ」
 
…と、母さんが呟いた。明日は、俺と梅流の結婚式だ。 

多分、そのせいだろうと思う。俺自身、子供みたいにわくわくしてる。…まぁ表に出してないけど。
 
「何?」と言う顔で彼女を見ると、いつも以上に優しげな眼差しを返してくれた。
 
「そんな歳って…、俺もう二十歳過ぎだよ」
 
「そうなんだけどね」
 
俺の言い分に、彼女は苦笑した。
 
「親にとっては、『子供』はいつまでたっても『子供』だから」と言いながら。
 
「そんなもん?」
 
「えぇ。秀一も子供が出来たらわかるわ」
 
――…そうだろうか。俺にも、理解することが出来る『感情』なのだろうか。
 
「秀一」
 
ふと、黙りこくってしまった俺を呼んだ母さんに
 
泳がせていた視線を急いで戻した。
 
「何?」
 
「貴方、私が再婚の事で悩んでたの、覚えてる?」
 
「……」
 
「あの時秀一は、『迷ってる母さんの背をぽんと押してくれた』」
 
――あぁ......。
 
「今、母さんとっても幸せよ。
 
だから、今度は、母さんが『それ』をやらなきゃね」
 
そう言って彼女は、俺の隣に来て、そして、背に手を回した。
 
「……」
 
「あの時も思ったけど、秀一の背、いつの間にかこんなに大きくなってたのね。
 
あと、…あの人に、似てきた―――」
 
……応えられなかった。
 
「いい?絶対梅流チャンを泣かしちゃ駄目よ。せっかくの幸せになれるジューンブライドでしょう?」
 
そう言った彼女は、酷く儚げで、それでいてとても強かった。
 
「――あぁ、泣かせないように勤めるよ……」
 
これは、本心。
 
「同居は……してくれないのよね?…でも、時には、こっちにも顔出してね」
 
「…あぁ」
 
「さぁ、明日は早いんでしょう?早く寝て、遅刻なんかしちゃ駄目よ」
 
ころりと表情を崩して、母さんはおちゃらけた風にそう言った。
 
そして立ち際に、ぽんと俺の背を叩いた。『いってらっしゃい』と『おめでとう』の意を込めて………。
 
 
 
 
 
翌日。
 
「秀ちゃんっ」
 
走りよって来た梅流に苦笑する。もちろん、抑えきれない嬉しさと幸せでだ。
 
真っ白いウエディングドレスを身にまとった愛しい者を見て、幸せを感じないわけが無い。
 
「似合う?」
 
笑顔で聞いてくる少女に、笑顔で「可愛いよ」と答える。
 
すると、梅流も「秀ちゃんもかっこいい」と返してくれた。
 
どうしても顔の筋肉が緩んでくる。
 
「よぉ蔵馬」
 
その言葉に振り向けば、声をかけた幽助初めいつもの面々が居た。
 
まぁ、身内だけの小さな式にしたから、殆どが顔見知りに決まってるけど。
 
「晴れてよかったねー。梅流ちゃん幸せのジューンブライドじゃないかい」
 
「うらやましい事〜幸せになってね」
 
口々祝いの言葉をする。
 
梅流はその言葉を聞きながら、真っ赤になってうんうん、と頷いた。
 
 
 
 
 
夫婦となった幽助と螢子ちゃん、未だ微妙な関係に位置している雪菜ちゃんと桑原君
 
ぼたん、静流さん、コエンマ、今まで出会った仲間たち
 
母さん、義父さん、秀一、それに…『新しい』義母さんに義父さん……
 
気配だけだが飛影もどこかに居るようだ。
 
「そうだ蔵馬」と、ぼたんが思い出した、と言うように声を上げて傍によって来た。
 
「あんたの『お父さん』からのメッセージ、貰ってきたんだったよ」
 
「父さんから…?」
 
「『幸せにな、秀一。』…だってさ」
 
ぼたんの笑顔と、その伝言と。心底からの笑みが零れた。
 
 
 
 
 
―――貴方は、生涯彼女を愛し続けますか?  ――YES
 
―――貴女は、生涯彼を愛し続けますか?   ――YES
 
 
 
 
 
幸せをもう手放さないように…
 
ほんのりと朱をまとった頬を横目に、その口唇に誓いを刻む。
 
春の日差しの様に暖かい祝福の拍手を耳の奥に聞いて、その大きな瞳を見つめ、耳元でそっと呟く。
 
「愛シテル。一緒に生きよう、これからずっと...」
 
彼女は、それはもう赤い顔をして、俯いてしまう。それをとてもいとおしく思う。
 
この時期には珍しい青い空に、ブーケは鮮やかに冴え、宙を舞う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
6月の清々しい空気の中、この愛よ、永遠に。
 
―――愛する者達のすべてに、幸せを―――。






 


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