「じゃあね、秀ちゃん。また14日に。6時だよ?」
「ん。約束だね、梅流」
そうやって指切りをしたのは
12日の昼のデート時でした
* Present for you *
<著者:要桜羅>
こちらは人間界。
おや。あちらに見えるは仕事帰りの南野秀一さんです。
なにやら彼には珍しく、かなりお悩みのもようです……。
あぁ、どうしようか。
どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう
どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう
どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよ〜う!
「よお蔵馬。いらっしゃい〜」
「あ」
蔵馬さんは頭を抱え悩んでいるうちにいつもの習慣で幽助の屋台に来てしまいました。
無意識に来たとはいえ、お迎えもしてもらった事だし……と、蔵馬さんは席に着きました。
もとからこの時間はちょうど客が疎らで、お客様は蔵馬しかいません。
気兼ねがないので、蔵馬さんは良くこの時間に幽助くんのラーメンを食べにきます。
「なんに致します?」
「あ、じゃあいつもので」
幽助くんの素敵な笑顔に、蔵馬さんも極上の微笑みでかえします。
「あいよ」
ラーメン屋さんを営んでいる幽助くんの手際はとても良く
手早いなぁ〜、と眺めているともうラーメンは出来てしまいます。
驚いていると、速さが命だしな、って幽助くんは笑います。
「有難う」
「んでよ、蔵馬」
「はい」
パキンと気持ちのいい音を立てて割り箸を割った蔵馬さんは
美味しそうに湯気を上げるラーメンをすすりつつ、幽助くんにお返事をしました。
「なんか悩みあるわけ?」
かなり長い沈黙のあと、蔵馬さんはまた笑顔で箸を動かし始めました。
「そんな風に見えます?」
「ん〜。つーか……ほら。まぁ、早い話が……うん、見える」
「あー……そう」
「なんかあったのか?」
「そうですねぇ」
幽助くんはお話を聞く為に、いつものようにカウンターに頬杖を付いて楽な体制を確保します。
しかし、なかなか蔵馬さんのお話は先に進んでくれません。
まったくもって扱いづらい奴だなぁ、と幽助くんは思います。
「お前の悪い癖だぞー、一人で抱え込むのぉー」
「幽助は、螢子ちゃんに何かプレゼントあげたことあります? 何あげました?」
「は? ん〜どうだったかなぁ。覚えてねぇや」
「……別に話してもいいですけど。今回は色々と、ありまして」
蔵馬さんは幽助くんの返事を聞いて、浅く溜息をつきました。
「ほぉ〜」
「明日、梅流の誕生日なんですよ」
「それで?」
「何をプレゼントしようか、悩んでいて」
「…………」
「……」
冷たい12月の風が2人の間を通っていきました。
澄んだ空気を通して無機質なガタンガタンという電車の音が聞こえてきます。
「そんな事かよ」
「そんな事です!」
蔵馬さんはどんな時も大真面目です。
例え人をからかう時でも、大真面目でからかうのですから。
幽助くんは半ば呆れてしまって溜息混じりに呟きます。
「のろけかよ」
「貴方にそう言われるのが嫌だったんです」
厚めに切られたチャーシューを頬張りながら、蔵馬さんは苦々しく言いました。
「それって別に何でも良いんじゃねえ?」
「でも、梅流からは何かといつも心のこもった色んなものを貰ってるし。それに、今お金ないんですよ。
クリスマスのデートにお金必要だし、それに
クリスマスプレゼントを先に予約してしまっていて、そっちに回ってしまったんです。
それに梅流の誕生日は明日だから時間も無いし。どうしましょう……」
「それはやっぱのろけか?」
「……やめてくれます、その言い草……」
「いやいや、仲の良いことはいい事だぜー」
ころりと態度をかえ、幽助は笑顔になります。
蔵馬さんが梅流ちゃんの事となると色々表情を変えていくのが実はとても嬉しいのです。
「梅流ちゃん本人に何が欲しいか聞いたら良いんじゃね?」
「『俺自身』」
幽助が洗っているどんぶり達のかちゃかちゃとぶつかる音が良く響く夜です。
「って、絶対答えると思うんですよねー」
「……じゃあ悩む事無ねーじゃん。蔵馬自身をあげたらいいんじゃね〜?」
☆
14日 P.M.6:40……
さて、泣いても笑っても、梅流チャンの誕生日が過ぎてしまいます。
あぁ、いっそこのまま眠っていたい。と蔵馬さんは真剣に思いました。
ベッドの中でぐでぐでとしていても時間は過ぎていきます。
「秀兄ぃ」
「んぁ〜?」
「で、ん、わ、だよ」
ドアを少し開けて身を乗り出している秀一くんの手には電話。
蔵馬さんはベットでシーツに絡まったままいます。ちょっとお行儀が悪いです。
「誰から?」
「女の人」
「……だから誰」
蔵馬さんはいいプレゼントが思いつかないので、ちょっとご機嫌斜めです。
「梅流さん」
「!!」
急いでベットから飛び出します。
蔵馬さんのファンに見せたいほどの慌てふためきっぷりです。
「はい、かわりました」
梅流ちゃんには弱い蔵馬さんを知っている秀一くんは
電話の内容を聞いちゃ悪いと、心配そうに苦笑しつつお部屋から出て行きました。
「秀ちゃん? どうしたの?」
「え、何が?」
「……。忘れたの、今日のデート」
「…………」
しまった。
蔵馬さんは、顔が一気に青ざめるのが自分でもわかりました。
すっかりさっぱりきれいに忘れてました。……蔵馬さんにしてはなんたる不覚です。
「ご、ごめん、いや今出るとこで」
「……でも秀一くんは秀ちゃんは寝てるって言ってた」
あぁ秀一〜っ……。
蔵馬さんは素敵な義弟をもって心底幸せです。
「ごめん。忘れてました」
「……」
「すいません。今すぐ行きますから、少し……だけ、待っててくれますか?」
心の底からすまないと思っている蔵馬さんの声はいつもより小さく、頼りありません。
「……駄目、ですか」
なかなかお返事が返ってこないので、蔵馬さんはしゅんとなりました。
妖狐さんの姿だったなら、耳も尻尾も力なく垂れていたことでしょう。
「待ってるから、早くして……ね?」
「うん!」
小さな梅流ちゃんの言葉にそれはもう嬉しくなって、蔵馬さんは電話を片手にたんすを開け始めました。
そして片手で器用に服を変え始めます。本当に器用な方です。
「でね」
「……ん?」
「梅流を見つけたら、すぐ駆け寄って抱きしめてくれる……?」
蔵馬さんはそんな可愛いお願いに、一瞬動きを止めてしまいます。
いったいどんな顔で言っているのだろうと考えると、零れる笑みを抑えられません。
「……勿論。俺のお姫様」
「待ってるね」
「はいはい」
蔵馬くんは足の速さには自信が有りました。
なにせ以前は妖狐としてかなり名を上げた盗賊をやっていたほどなのですもの。
走る!
車よりも電車よりも早く走る!
「梅……」
暗くなったためイルミネーションがキラキラと光りだしていて
とても幻想的で綺麗です。
大きなツリーの木の下で、目もいい蔵馬さんはすぐに梅流ちゃんを見つけます。
どんなに人でごった返していても、蔵馬さんは梅流ちゃん反応をすぐにキャッチできるのです。
約束どおり声をかけようとしましたが、
蔵馬さんは、自…は認めてませんが、他に認められる腹黒い男の子です。
少し考えて、蔵馬さんは梅流ちゃんの後ろにまわりこみました。
はぁ……と吐き出された梅流ちゃんの息は真っ白です。
「秀ちゃん、ちょっと遅いぞー」
「お待たせ――梅流」
梅流ちゃんは後ろからぎゅーって抱きしめられました。
耳元で囁かれた声は紛れも無く蔵馬さんの声です。
大急ぎで振り向きます。
「秀ちゃんっ」
やっぱり大好きな大好きな蔵馬さんです。
ぎゅっと抱きつきます。すると、蔵馬さんは優しく髪をなでながら言います。
「遅れてスイマセンでした」
「ううん。ううん!」
昨日一日は蔵馬さんの仕事であえなかったのです。
寂しがりの梅流ちゃんはその寂しさを埋めるようにしっかり蔵馬さんにしがみ付きます。
クリスマスも近い事もあって、デートスポットのここにはカップルは沢山います。
梅流ちゃんと蔵馬さんが少しくらいスキンシップしてたって
それほど気になりません。
「お誕生日オメデトウ」
プレゼントが無い代わり、蔵馬さんは心の底からそう言いました。
「プレゼントは……残念ながら無いんですけど……」
悲しそうな蔵馬の表情を見て、梅流ちゃんは蔵馬の胸に顔をうずめます。
「……梅流ね」
「うん」
「秀ちゃんさえいてくれれば、なんにもいらないよ?」
「…………」
――うん、知ってるよ……?
「秀ちゃんが悲しそうな顔してたら、梅流も悲しくなっちゃう」
「そう、ですね。俺も、梅流の悲しそうな顔見たくなりませんし」
蔵馬さんは自分に出来る精一杯の極上の笑顔をしました。
「じゃあ、この笑顔がプレゼント、って事でいいでしょうか、お姫様」
「……うん!」
梅流ちゃんも素敵な笑顔をしました。
う〜ん、笑顔の素敵さには勝てないなぁ、と蔵馬さんは心の中で思いました。
END
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