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 冬の朝   <著者:杏サン>


「明日はこの冬一番の冷え込みになるでしょう」

そんな昨夜のニュースを思い出す。
耳元で解除しわすれていた目覚ましが鳴って、目を覚ました冬の朝。
 
「やだぁ。せっかくの日曜だったのに…」

梅流は目覚まし時計を止めると、再び毛布を引き上げた。吐く息が白い。
冬の日は、ぬくぬくしたこのまどろみがたまらない。
布団の外は身震いするほどに寒いけれど…。
半分だけ夢の中にいるような、そんな気分でうとうとしている
梅流がふと目を開けた。
 
 何だろう?誰か呼んだ?

またまぶたが重くなっていって…呼吸が寝息に変わる直前。
梅流ははっと目を覚ます。

そしてがばっと毛布を跳ね除け、窓を覗いた。
 
なぜ窓を見ようと思ったのかなんて分からない。
窓はしっかり鍵がかかっているんだから、外からの声なんて
良く聞こえやしない。
それより窓の外に立つ秀ちゃんも、梅流の名を大きな声で
呼んだりはしなかったはずなのに。

 「秀ちゃん!」
 
パジャマのままで梅流が窓から身を乗り出すと、ちょうど梅流の
部屋の窓に背を向けたところだったらしい彼がびっくりしたように
こちらを見た。
 
「梅流!!」
「ちょっと待ってて」
 
冬の早朝。
息が真っ白になるほど寒いけれど、梅流は部屋から飛び出した。
飛び出しざまにピンクのカーディガンを引っ掛けると
まだ眠っている家族を起こさないようにそっと玄関から外へ出る。
 
「…おはよ。秀ちゃん」
「おはよう、梅流。…風邪引くよ」
 
そっと肩に秀ちゃんのコートが掛けられる。
まだ、彼のぬくもりが残っているコート。
 
「ありがとう」
 
梅流は大きいコートの袖口をぎゅっと握って笑顔になる。
それから、寝起きの自分の顔を思い出す。
 
・・・・・・しまった。まだ起きてから顔を洗ってない!!

やっぱりどんな時だって、一番綺麗な自分を見てもらいたいから。
思わず笑顔が凍りかけた梅流に、秀ちゃんは優しく笑いかける。
 
「よく起きてたね。朝一番に突然梅流に会いたくなったんだ。
 まだ寝てるかと思ったんだけど…グッドタイミングだったみたいだ」
「ちょうど目が覚めたの。秀ちゃんの声が聞こえたような気がして…」
 
ちょっと上目遣いに秀ちゃんを見上げる。
すると、ちょうど自分の声が白い息になって、秀ちゃんに届くところだった。
 
「息が白いね…」
「ああ」
 
秀ちゃんは頷くと梅流をじっとみた。
 
「え?な、何??」
 
顔になにか付いているのかと、思わず赤くなった梅流に
秀ちゃんは突然顔を寄せる。
 
「な、何っ!?」

慌てる梅流の視界に、いたずらっぽい笑顔が飛び込む。
そして、・・・梅流は不意に唇を塞がれた。

いつもよりも長いキスの後、秀ちゃんは梅流の額に自分の額を当てて囁く。

「梅流の唇から白い息が漏れると、梅流の暖かさがただ外に
 出て行くみたいでもったいなくて」
「もう・・・びっくりするじゃない」
 
可愛く小声で抗議する梅流に、秀ちゃんは笑って囁きを返す。
 
「じゃ、今度は断ってからにするよ。
 ・・・梅流、もう一度キスしてもいいかな?」
 

澄んだ冬の空気の中、二人はまた唇を重ねた。
 

                                 
 


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