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問い <著者:相楽 翠サマ>

「あ!ねぇねぇ、南野君」
 後ろから突然肩を叩かれて、秀一は驚いて振り返った。
そこには見知らぬ女生徒が3人立っていた。
「ちょっといいかな」
 その内の1人が上目遣いでこちらを見ている。後ろには俯いたまま顔を
赤らめている小柄な少女と、好奇心を隠せないといった顔をしてその少女の
手を握りしめている友人が控えていた。
『またか』
秀一は直感的にそう思った。人間界に来てから何度こういう場面にであっただろう。
しかもたいていその場合は自分が主役なのだ。
「何の用?急いでるんだけど」
 秀一はなるべくそっけなく答えた。こういう時はあまり期待をさせるのも可哀想だ。
「ほら、言っちゃいなよ」
「せっかく決心したんだから」
 他の2人に押し出されるように小柄な少女が一歩前に進み出る。
少女は俯いていた顔を上げて秀一を見た。その顔は紅潮したままだった。
「あ・・あの、私、3組の伊藤って言います。いつも南野君のこと見てました」
 小柄な少女は一所懸命に話している。顔もかわいいし、大抵の男は
喜んでO.K.することだろう。
「よかったら、お友達になってくれませんか?」
 後ろの2人がよく言ったと拍手する。

 −お友達−

まさかこんな断りづらい言葉がでてくるとは思っていなかった。
付き合って欲しいと言われている訳ではないが、当然それを狙っているだろう。
秀一は少し考えたが、結局首を縦に振るしかなかった。しかたがない。
あまりに彼女顔するようだったらそれなりの態度に出るが、友達としてなら
別に邪険にする必要もないだろう。
そんな考えが後で大変な事態を招こうとは、思いもよらなかった。
 
 
 その日の夜、久しぶりに秀一は梅流と過ごす時間を手に入れることが出来た。
自分の腕の中で楽しそうに最近の出来事を話す梅流に、秀一は今日のことを
話すべきか否か迷った。
「どうしたの?」
 梅流は秀一を見上げて訊ねた。
「なんでもないよ」
 そう言って、秀一は梅流の額にキスをした。その時、突然梅流は
秀一の腕からすり抜けた。
「そういえば今日ね、3組の伊藤さんに秀ちゃんと付き合ってるのかって
 聞かれたよ」
 秀一は心臓が跳ね上がったような気がした。
「なんて、答えたの?」
 なるべく平静を装ったつもりだったが、心なしか声が震えてしまった。
梅流は何も答えずに秀一を見て笑っている。時が止まったかのような沈黙が流れた。
何も後ろめたいことはしていない筈なのに、何故か目をそらしていた。
「なんて答えて欲しかったの?」
 思いもよらない梅流からの質問に、秀一の思考回路は一瞬止まった。
そんな秀一を見て梅流はクスッと笑うと、秀一の頬に軽くキスをして立ち上がった。
そして玄関で靴を履きドアを開けると、振り返って笑った。
「ちゃんと考えておいてね」
 そう言って梅流は帰っていった。一人になった秀一はソファに座り込んだ。
そして考えた。
梅流に何て答えて欲しかったのか。梅流はなんであんなことを聞いたのか。
全ての答えがわかったとき秀一は思った。

『明日は一番最初に梅流に謝ろう。
 それと、伊藤さんにオレには梅流がいるからって言わないとな。』


 一晩中悩んだ秀一は、今日が期末テスト初日だということをすっかり忘れて
かつてない爽やかな気分で学校へ向かった。






 


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