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シンデレラ☆ハロウィン 1

「はあ〜……」

朝晩が冷え込み始めた神無月の暮れ。
少女は、本日数十回目のため息をついた……。

 

 

ホワイト・ウィッチクラフト・ハイスクール。
通称、W2スクール。

その名の通り、魔法使いの卵が、魔法使いになるため、魔法を習うべく通う学園。
頭についている「ホワイト」とは、白魔術のこと。
そう、ここは白の魔法使い……つまり、世の中にとって、基本的にプラス…生産の働きをする者たちが集う学園である。

といっても、別段ここへ通わなかったからといって、悪い魔法使いになるわけではない。
W2で習うのは、薬草学や農作物の研究など、「何かを生み出す」のが中心というだけ。

 

他は、例えば、グレー・ウィッチクラフト・ハイスクールなどは、過去の物を発掘し、その善し悪しの研究などが中心となっている。
スカイ・ウィッチクラフトは、研究よりもスポーツが盛んで、ホウキによる飛行レースなどでは、何百人ものプロを産出していた。
ブラウン・ウィッチクラフトなどは、魔法界以外の世界との交流を目指し、あらゆる方面から観察研究に勤しんでいるらしい。

つまり、何処へ通うかは個人の自由。
向き不向きはあれど、どの学園にも善悪の区別はなかった。

 

 

そのW2スクールの中庭。
植物の蔓がまきつく、四阿に腰掛け、少女はまたため息をついた。

「はあ〜…」

ため息をつく度、彼女の短い銀髪と耳飾りが小さく揺れる。
黄色に近い金色の瞳は、憂鬱に染まっていた。
W2の制服である白い装束を纏い、少し大きめの丸鏡を手に、前後にゆらゆらと揺れている。

 

少女の名前は、瑪瑠。
W2スクールに通う魔女である。

 

といっても、純血の魔女ではない。
彼女は種族的にいえば、白狐という白い狐の系統の血が流れていた。
その証拠に、羽の飾りをつけた耳は頭の上に、白い獣の耳があり、腰から下には尾がはえている。

しかし、魔法学校とはいえ、別段魔法使いでなければ、通えないわけではない。
一定以上の魔力を秘め、学問に勤しむ気持ちがあれば、誰でも入学試験を受けられるのだ。

そして瑪瑠は入学時、文句なしの成績をおさめた。
入学後も成績優秀で、友達も出来、楽しい学生生活を送っていた。

 

が、しかし。
今彼女は、激しい悩みの中にいた。

原因は、先週出された試験である。
といっても、筆記ではなく……どちらかといえば、課題であった。
これに合格しなければ、進級出来ず、もう一年同じ授業を受けなくてはならないのだ。

といっても、やることはそれほど難しくはなく、大概の者は進級する。
瑪瑠も今までの成績を考えれば、試験を受けるだけで、結果がどうであれ、充分進級出来るはずだった。

 

 

けれど、根が真面目な彼女は、とてもとても悩んでいた。

出された課題は……これは、毎年同じ課題なのだけれど……一見簡単で、とてもとても難しい。

 

それは、『人間の「心からの願い」を叶えること』。

 

 

 

これは基本的に、魔法界で勉学や研究を行うW2において、初めて生徒が学園を通して人間界と触れ合う試験である。
しかも、行うのは、まだ瑪瑠のような子供たち。

故にそこまで深く考える必要性は、教師たちも持ってはいなかった。
この課題はクリアすることが一番の目的ではなく、人間界を知る意味で行われているようなものなのだから。

 

現に、『心からの願い』ではなく、ちょっとした願い……
例えば、小腹が空いたからお菓子が欲しいとか、雨に打たれてしまったからシャワーが浴びたいとか、その程度でも別段構わない。
一人では不可能と感じれば、同級生を誘い、合同で行ってもいい。

また、願いが分からなければ、直接人間に聞いても構わない。
魔法を信じるか信じないかは相手次第だが、どんな形であれ、魔法を使って願いを叶えれば、それでいいのだ。

 

もちろん、『心からの願い』でなかった場合、点は落ちる。
が、落第にはならない。

つまり、ほとんどの生徒たちは、初めての人間界に喜びこそすれ、それほど真面目に試験をこなそうとは思わず
適当な相手を見つけ、適当に願いを叶え、そこそこの成績で進級していくのである。

 

 

 

しかし、瑪瑠は違った。

この試験内容を聞いた時、必ずや『心からの願い』を叶えたいと思った。

 

点数の問題ではない。
生まれて初めて、人間と関わり合いを持てるのだ。
更にW2では、次に人間界へ行けるのは、幾年も先のこと……それも選択授業で取れた場合だけ。

 

兄や姉から聞いて、憧れていた人間界。
其処へ行けるだけでなく、其処の人の役に立てる。

これほど嬉しいことはない。

だから、絶対に『心からの願い』を叶えたい。
そう思っていたのだけれど……。

 

 

 

 

 

「何をしている?」

ふいに後ろから声をかけられ、瑪瑠は振り返った。
すぐ背後に立っていたのは……瑪瑠よりも数歳年上と思われる美青年だった。

銀の長い髪。
瑪瑠のとは色みの違う、鋭い金色の瞳。
W2の制服ではなく、黒いスーツに黒いマントをまとっている。
そして、瑪瑠と同じ獣の耳と獣の尾を持っていた。

 

「あ、蔵馬」

呼びながら立ち上がる瑪瑠。

瑪瑠が呼んだ通り、彼の名は、蔵馬といった。
しかし、服装がそうであるように、W2の生徒ではない。
彼くらいの年齢であれば、とっくに上の学年で、別の校舎になっているから、このような所にいるわけがなかった。

かといって、教師なのかといえば、そうではない。
もちろん、事務員でもなければ、OBでもない。
この学園の関係者の、どれにも該当しない者だった……。

 

 

……瑪瑠が蔵馬と出会ったのは、もう随分前、学園に入って一年目の頃である。

その時、瑪瑠は課題作成のために、学園裏手の森へ植物採集へ来ていた。
ところがあまりにも夢中になりすぎて、禁断の領域へ足を踏み入れてしまったのだ。

禁断の領域とは、森の奥深く、闇の力が強い地帯のこと。
無論、そこには魔法で出来たフェンスが何重にもされてはいる。
故に、普通の生徒ではまず来られないからと、教師も油断していたのだ。

そう。瑪瑠ほどの脚力と跳躍力がなければ、決して超えることは出来なかったろう。

 

昼でも薄暗い其処は、地場が発生しており、方向感覚を失わせ、一度入り込んだ者を決して逃がしてくれない。
そうとは知らずに、必死に帰ろうと、歩きに歩き続け、走りに走り続け……くたびれて、動けなくなっていた時だった。

闇の中に光る銀色を見たのは……。

 

 

「……お前、こんなところで何をしている?」

突然だったことと、あまりに彼が美しかったことで、呆然と見上げていた瑪瑠に、彼は呆れたように言い放った。

「あ、うん。迷っちゃって、疲れたから座ってたの」
「……そうか」

素直に答えたつもりだったが、彼は少しだけ驚いたように、瞬いた。

「W2の生徒か?」
「うん。瑪瑠っていうの。貴方は?」

「……蔵馬だ」



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