桜舞〜静寂の舞〜
桜舞の終演
すべての生命が、我を思い出す。
また来年の開幕を、待つ…。
5
木々が、静かになる。
薄紅の羽衣は土で汚れ、朽ちる。
一時(いっとき)の静寂が、生命たちを呑み込む。
「桜……終わっちゃったね…」
「あぁ…」
桜の木を前に、2人は呟く。
「綺麗だったのになぁ…。ずっと咲いてればいいのに…」
少女の小さなわがままに<蔵馬>は微笑む。
「桜は、散るから綺麗なんだよ。散り際が一番綺麗だっていうだろ?」
「でもぉ…」
<梅流>の顔が膨らむ。
ぷぅっと膨らんだ頬を、<蔵馬>は両手で押し、しぼませた。
「いいじゃないか。桜は、来年も咲くんだから」
そう囁く。まるで子供扱いだ。
でも<梅流>は、それに口答える事はできない。
彼のほうが1枚も2枚も上手(うわて)だとわかっているから。
また、それをわかっている<蔵馬>は、いつも意地悪。
<梅流>を子供扱いをする。
桜舞が終わった…
役目の済んだ木々たちは、静かにたたずむ。
「もお!いつも子供扱いなんだから!!」
<梅流>の小さな反発。くるりと<蔵馬>に背を向ける。
くすくすと笑みをもらす<蔵馬>。
そして、瞬間真面目な顔をする。
<梅流>の肩に、そっと手を置いて、自分のほうに向かせる。
一瞬、時が止まる。
「………子供扱い? やだなぁ…。オレ、そんなつもり無いよ?」
「…………………っ…!」
少しの間、何が起こったのか分からなかった<梅流>だが
何が起きたのかを把握すると、耳まで紅くなった。
ほんの一瞬…一瞬だけ、
<蔵馬>の唇と<梅流>の唇が触れ合ったのだ。
そんな<梅流>を、<蔵馬>は優しく包み込む。
<梅流>は、抵抗はしなかった。
……できなかった…というのかもしれない。
春の木漏れ日のように優しくて………
春の太陽のように暖かくて………
そして、ふんわりいい香りがするその胸を、嫌がるなんて
<梅流>にはできなかった。
しばらく間、そのまま時が過ぎた。
サワサワと風は木の葉を揺らす。
そのたび木漏れ日は、形を変え2人を照らす。
まるで永遠……
ずっとこの時が続くような…
続いてくれるといいような……
モウ…ハナレナイ…ハナレラレナイ…ハナサナイ……
桜舞の終幕
魅せられし生命の開放。
でも………
それは、ほかのモノに囚われし事の前兆でしか…ないけれど。
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