参・盗賊妖怪・猪八戒 5 〜朝日〜

「……これから、どうするんだ?」

家族を埋葬した墓を見つめる銀狐に、蔵馬は問いかけた。
銀狐は朝まで、放心状態で、墓の前に座り込んでいた。
蔵馬にも、梅流にもかける言葉はなく、一晩中、後ろに立っていただけだった。

「そうだな……1人になった時の事……考えてなかった……」
銀狐は、自分をあざけ笑うように言った。
振り返ったその顔には、1筋の涙が……。

「……行く当てはないのか?」
「……ない」
「じゃあさ。一緒に行こうよ!!」
梅流がようやく元気を取り戻して、叫んだ。

銀狐はしばらく、瞳を丸くして見ていたが、
「……貴様ら……どこか、行く当てあるのか?」
「西!」
2人同時に、月が消えようとしている空を指差して言った。

「西だけなのか?」
「うん」
「ちゃんと、特定したような場所はないのか?」
「取り合えずはな。しいていえば、天竺だな」
「キョウテンを取りに行くの!!」
「天竺って、聞いただけだが、無茶苦茶広いんだぞ。
 それにキョウテンなんざ、そう簡単に見つかる物でもないし」

「着いてから探すさ。といっても、それだってそんな風に
 考えられるようになったのは、つい最近だけどな」

「……その女によって、か?」

「女じゃないよ!!梅流だよ!!蔵馬がつけてくれたの!!」
「あ、そう」
銀狐は半分、呆れて言った。

「で、行くのか?行かないのか?」
しばらく見上げていた銀狐だったが、ふっと笑って立ち上がった。
「貴様らだけじゃ、頼りなさそうだからな。付き合ってやるよ」
言い方は素気ないが、その裏の言葉を蔵馬も梅流もしろも、ちゃんと理解していた。


「そういえば、名前なんていうの?」
梅流が思い出したように聞いた。
「…おれのか?」
「うん」
「……蔵馬」
「はっ?」
「だから……蔵馬!!そいつと同じなんだよ!」

「ええ――――――――――――!!??」

梅流の森中に響き渡る声は、周囲の鳥たちを起こしてしまったようだった。

「え、何で、何で???」
「偶然だろ」
梅流は驚いていたが、蔵馬(法師の方)は落ち着いたものだった。
内心、すごく驚いていたのだが……。

「いちおう、洗礼の名はあるんだがな……あまり、気に入っていないんだ。」
「どんな?」
「…猪八戒」
「ふ〜ん。洗礼とか法名って、あんまりいいのは、ないんだな」

「ややこしいから、おれの事は『妖狐』でいい。銀狐でもいいが、言い難いだろ?」
「確かに、妖狐の方がマシ…かな?」
蔵馬は納得がいくような、いかないような、不思議な気持ちで首を捻った。

「じゃ、決まりだね!!よろしくね!!妖狐!!」
梅流は銀狐−−妖狐の前に出て、その小さな手を出した。

「よろしく。妖狐」

蔵馬も手を差し出した。

「ミーミー!」

しろも、シッポを振って妖狐を見上げた。

「しろちゃんも『よろしくね』って言ってるよ!」

「ああ……よろしくな」
妖狐もその白い手を2人と1匹の前へゆっくり出した。


朝日の中。2人と1匹は新しい仲間をむかえた。

3人と1匹の旅は、朝日に背を向けて、始まった。

                            続く・・