♪music by "Yuht"





第四部
〜笑〜





「うっ……」
「あ、気が付いた!?」

目覚めた野獣の視界に最初に飛び込んできたのは、
梅流の優しい笑顔だった。

「大丈夫?」
「ここは…」
「お城だよ、貴方の」

梅流はニコッと微笑むと、
野獣の額からタオルを取り、脇に置いた洗面器で洗った。
その手は火傷を負っていた…軽く手当はしているらしいが…。
よく見ると、梅流の着ている服は、
先ほど梅流が着ていたものとは違った。
というよりそれは、タンスに入れてあった自分の服だったのだ。

「それ…」
「え?あ、これ…借りちゃった。ゴメンね」
「いや……それじゃデカくないか?他に何か……うっ!」
「あ、まだ寝てて。傷完全に塞がってないから。ほらタオル」

そう言いながら、梅流は横にさした野獣の額にタオルを置いた。
野獣の白い額……。
冷たいはずなのに不思議と温かい、そんな感覚に襲われていた。

そしてこの時、ようやく野獣は自分が今、
何処でどういう状態でいるのかはっきり分かった。

狼達に食い付かれてからのことは覚えていないが、助かったらしい。
そして今、自分の城の自分のベッドで梅流の介抱を受けている。
ということは…どうも梅流に助けられたようだ。
よく自分よりも背の高い男を連れていけたものだと感心しつつ、
女に助けられたことを恥じた。

しかし梅流の方はそんなことまるで気にしていないようである。
それどころか、自分が目覚めたというのに立ち去ろうともせず、
ずっと横に座っているのだ。

「何故…」
「え、何?」
「何故逃げなかった。今ならお前をおれは追えないぞ」
「何でって……そんなの怪我した人ほおっておけるはずないじゃない!」
「……変わってないな」
「え?何か言った?」
「いや、何でもない……」

しばらく沈黙が続いたが、今度は梅流から問いかけた。

「あの、あたしの方からも聞いていい?」
「ああ」
「何で、あたしを助けてくれたの?あたしは逃げようとしたのに……」
「…先に聞いていいか?」
「え?うん」
「さっき逃げようとしてたのか?」
「あ、ゴメンね!つい…」
「何故だ?」

野獣は梅流が逃げようとしたというのに、まるで怒っていない。
むしろ今とさっきで全然違う梅流を、面白く思っているようである。

「えっと、その……地下室見ちゃって…」
「地下室?地下室がどうかしたのか?」
「あそこ……いっぱい人の死体とかあったから…。
 てっきり貴方が殺人鬼だと……」
「……あはは!!」

突然野獣が笑い出したので、梅流は驚き開いた口が塞がらなかった。
今まで野獣が「嗤って」いるような顔は何度か見た。
父のことを見ていた時はいつも「嗤って」いた。

しかし……今は「笑って」いるのだ。
しかもかなり楽しそうに……。

「お前、早とちりなところも変わってないな!」
「は、早とちり?」

何が何だか分からないといった梅流。
野獣はそんな梅流の頭に手を乗せ言った。

「あれは人形だ」
「に、人形??」
「といってもおれの趣味じゃないぞ。親父のだ。
 昔趣味で作っていた蝋人形だが……。
 精巧すぎるとはいえ、そんな間違いした奴お前がはじめてだぞ」
「に、人形…だったの…」

誤解がとけたのはいいが……。
梅流は自分の早とちりに顔を真っ赤にした。
考えてみれば、あの部屋からは血の匂いは全くしなかったのに……。


「まあ気にするな。間違いは誰にでもある」
「そ、そう?……あ、そういえばさっきの続きだけど、
 どうしてあたしを助けてくれたの?」
「……助けて悪いか?好きな女のこと……」
「は??」

意外な返答に唖然としている梅流を見ながら、
野獣は耳まで真っ赤にしていた。

「え、だって…」

何とか言葉を捜して続けようとする梅流。

「貴方と会ったの、ついさっきなのに……」
「……やっぱり覚えてないのか」
「え?」
「当然か。色々あったしな…」

一人思い出に浸っているらしい野獣。
梅流は何が何だかさっぱり分からず、

「……全然話が見えないよ〜!」









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