♪music by "Yuht"





第八部
〜帰〜





蔵馬が目覚めたのは、その直後だった。

「ん…?梅流?」

蔵馬は梅流がいないことに気付き、慌てて辺りを見回した。
しかし梅流はそこにいた。
ベッドの横に座っていて、見えなかったのだ。

「何だ、脅かすな……梅流?」
「ひっく……うっく……」
「どうした?腹でも痛いのか?」
「ご…めんね……ごめん…ね……」
「は?」

いきなり謝られて、何が何だか訳が分からない蔵馬。
しかし、梅流の手に鏡が握られていることに気付き、

「……見たのか…おれの過去を……」
「ごめんね……ごめんね……」
「何で、謝るんだよ?何で、梅流に謝る必要があるんだよ?」

おろおろしながらも、ベッドから這いだし梅流の正面に屈み込む蔵馬。
梅流はそんな蔵馬と視線を合わすことも出来ず、ただただ泣くだけだった。

「梅流。泣いてたら分からないじゃないか。
 何も分からないのに謝られても困る。
 お前は何もしてないのに、何故謝るんだ……」
「……ひっくひっく……だって……」

ようやく僅かに落ち着きを取り戻して話す梅流。

「蔵馬は……もう殺生やめようってしてた……
 あのままなら、野獣になんかならずにすんだのに……
 あたしが…狼に襲われたりなんかしたから……」
「あのな〜。別に好きで襲われたわけじゃないだろうが……」
「でも!!」

急に面を上げ、ボロボロに泣いている顔で蔵馬を見つめた。
蔵馬は誰かに泣かれるということが、あの時以来全くなかったので、
びっくりしているらしい……。

「やっぱり、あたしのせいだもん!!あたしがあそこにいなければ……
 蔵馬が野獣になっちゃったの、あたしのせいだもん!!」


「…おれは野獣になってよかったと思ってる」
「えっ……」

突拍子もない蔵馬の言葉に、梅流の涙はピタッと止まった。
蔵馬はそんな梅流の肩に手を置き、
これ以上にないくらいの優しい表情で、

「そうじゃなかったら、こうしてまた梅流に会えなかっただろうからな」
「蔵馬……」



「本当言うとさ。梅流の父親がこの城に来たのは、偶然じゃなかったんだ」
「え?」

いきなり話題を変える蔵馬。
梅流はきょとんっとした表情で、蔵馬を見つめた。

「おれがさ。招いたんだよ、簡単な魔術で。梅流に会いたくてさ」
「蔵馬……何で、そこまであたしのこと……」
「だから……好きだからだって…」
「え?え?いつから?」
「……過去、見たんだろ?だからその……初めて見た時から……」

つまりは初恋で、一目惚れだったらしい。
彼はもう全身が銀色だったはずなのに、今では真っ赤になっている。

「蔵馬……」

梅流も蔵馬のことを……。
いよいよ本格的に、あの時感じたあの感情は……
本物だったということに気付きだしていた。


「あのね!蔵馬、あたしも……えっ?」

突然、梅流の手の中から淡い銀色の光があふれ出した。
鏡が再び光り出したのだ。
そして、今度映し出されたのは……。

「お父様!?」

そう、梅流の父親だったのだ。
ベッドに横渡り、ピクリとも動かない。
しかも顔は蒼白で、今にも死にそうである……。

「く、蔵馬!これって……」
「…この鏡は手にした者の見たいものを映し出すんだ。
 お前の父親、病に侵されているらしいな…」

そう言うと、蔵馬は髪の中に手を入れた。
そして、おろおろしながら鏡を覗き込んでいる梅流の前に、
小さな薬包を差し出した。

「この薬持っていけ。すぐ治るはずだ。
 おれが魔術で森を開く。五分もあれば着けるようにな」
「あ、ありがとう……あの…でも……」
「父親が治ったら……戻ってきてくれるか?」
「蔵馬……うん!!ありがとう!必ず戻ってくるからね!!」

そう言うと、梅流は蔵馬の部屋を後にした。
その後ろ姿を見送りながら、蔵馬はポソッと呟いた。

「俺も…馬鹿だな……」









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