桜舞〜春伝の舞〜
雪が溶ける 春が来る。
鳥が囀(さえず)る 春の訪れを知らす。
花開く 春が、始まる……。
桜舞の開演は
まだ、先のことだけれども…………。
1
「春だねぇ……」
黒髪の少女からもれる言葉。
分かってる事だけど、口にしたくなる言葉…“春”。
「うん。でも、まだ寒いな…。早く暖かくなるといいけど」
少年の言葉は言う。それを聞いたあと、桜の木を、少女はふと眺める。
桜の枝には、小さな蕾が点々と見えた。
「桜…早く咲くといいなぁ…」
「そうだね。桜を見ると、春だなぁって実感するし」
そう言うと、紅の髪をもつ少年が桜の木に近づく。
そっと幹に触れる。
優しい指先…
気持ちの良い波動…
この者は、ただの人間ではない…。
「きっと今年も、綺麗な華を咲かすよ。去年とは比べ物にならない位…ね」
少年は、優しく幹に指を滑らす。
「蔵馬、もしかして今、桜に何かした?」
「別に。ただちょっとおしゃべりしてただけだよ」
<蔵馬>と呼ばれた紅髪の少年は、意地悪そうな笑顔を少女にむけた。
少女はそれを見て、頬を膨らます。
その仕草は、なんとも可愛らしいものだった。
<蔵馬>は、穏やかな笑みを浮かべ、少女の所へもどった。
「植物(さくら)にヤキモチ? 可愛いな、梅流は」
「ヤ…ヤキモチなんか……」
<梅流>と呼ばれた黒髪の少女は
意地悪な<蔵馬>の言う事に、顔を染めた。
そんな<梅流>を見る<蔵馬>は、とても優しい瞳をしていた。
「さ! 家に帰って,暖かい飲み物(もの)でも飲も。
いくら春だからって、まだ肌寒いからね」
「うん……」
<蔵馬>の提案に、<梅流>は同意する。
そして、桜の木を 後にする………。
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