桜舞〜祝福の舞〜
風が奏でる。
木々が歌う。
そして、桜が舞う。
すべての生命が、今、称(たた)える。
すべての生命が、祝福を挙げる。
4
桜の季節の到来…。
春の瞬き すべての生命の目覚め
暖かい日差し すべての生命の源
美しい自然の祝福……
桜が…踊る。
桜が…舞う。
桜が…笑う。
桜は…すべてを見透かす…。
「ねぇ蔵馬、今年の桜…散るの、早くない?」
「・・そう? オレは、そんな気はしないけど……どうかなぁ」
紅(くれない)の髪を靡(なび)かせる<蔵馬>は,
目の前で紅茶を啜(すす)りながら桜を見ていた黒髪の少女にそう言うと
自分も、舞い散る桜の花びらに目を向けた。
なおも桜は、薄紅の羽衣を翻(ひるがえ)していた。
今が一番美しい時だ…。
桜の舞が始まる頃が、桜の美しさを一番堪能できる……。
―――だから、その頃…私をミツメテ………。
風が止んだのか、桜の舞がパタリと終わった。
どうやら2人とも、しばしの間、それに魅入っていたようだ。
ふと気づくと、さっきから10分ほど時が過ぎていた。
「あ、梅流…紅茶のおかわりは?」
「ェ…ううん、まだ大丈夫」
少々気まずくなってしまった。会話が途切れた。
「桜…綺麗だよね」
声を発したのは〈梅流〉のほうだった。
「あぁ…今年のは、特に…。オレ、もともと桜って好きだから」
「うん…わたしも好き……」
また、桜の舞が始まった。
「今年の桜も…もう、終わりだね」
少女の言葉に、少年はうなづいた。
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