弐・小馬のしろ 2 〜白い馬〜

ようやくオークションが終わり、誰もいなくなった広場を歩く蔵馬と梅流。
様々な足跡と、檻を引きずった後が残っている。
(「人間の方が悪どいかもな」)
「蔵馬――――!」
はっと我に返る蔵馬。
見ると梅流は数メートル先の茂みを覗き込んでいた。
 
「どうかしたのか?梅流」
「あれ、何だろう?」
梅流は茂みの中を指差した。
「どれ?」
蔵馬も梅流の後ろから、茂みを覗いた。が、何も見えない。
「奥にいるのか?」
「うん。こっちこっち」
と、梅流はどんどん茂みの中へ入っていった。蔵馬も後を追った。
棘のある木々の中を突き進んでいくうちに2人とも、服は汚れ
かすり傷をいっぱい作ってしまった。
 

茂みの奥にいたのは、全身真っ白で紅い瞳をした馬だった。
白い馬なら、珍しくない。そこら辺でよく見かけるものだ。
紅い瞳…は確かにそうそういない。
しかし、アルピナとか、色素が薄い突然変異のものなら、いてもおかしくない。
 
しかし……蔵馬たちが今、見ている馬は、突然変異ですまされるような
ものではなかった。不可思議なのは、その大きさだ。
異常とかいう段階を通り越して、小さい。
柴犬くらいの大きさしかない。
確かに今は品種改良で、子供の背丈よりも小さな馬も出来てはいる。
しかし、ここまで小さくはないし、いくら改良されても
瞳の大きさだけは元の大きさのままなはずだ。
この馬は瞳も体に合わせるように小さい。
普通の馬が形を変えずに縮んだだけなのだ。
 

「蔵馬。これって、馬なの?」
「た、多分……他の生き物には見えないから……」
「小さいね。仔馬なの?」
「仔馬っていっても、ここまで小さくはないよ」
 
あれこれ考える蔵馬。その間に、梅流は段々、お腹が空いてきた。
よく見ると、この小馬は真っ白のわたあめのようにも見える。
「おいしそう……」
「梅流?」
嫌な予感がする蔵馬。
その予感は見事に的中。
次の瞬間。梅流は小馬に喰らいついていた。
 
「め、梅流!!」
「ふわふわしてて食べにく〜い」
「こら!梅流!それは、食べ物じゃないの!!」
慌てて小馬を引っ手繰る蔵馬。
幸い、軽くかんだだけだったので、後も残っていなかった。

挿絵★南野める

「ミーミーミー」
「変わった鳴き声だな」
蔵馬は歩きながら、腕の中で鳴いている
小馬を見下ろして言った。
「さっきの馬車を引いてた馬さんとは、違うもんね」
そういいながら、梅流は小馬の頭を優しく撫でた。
さっきまで、食べようとしていたにも関わらず
梅流は小馬がいたく気に入り
ずっと頭や背中、鬣を撫でている。
小馬の方も梅流に心を許したらしく
何をされても気持ちよさそうにしていた。
 

結局、あの場に置いておくわけにもいかずに、連れてきたのだ。
どうせ、オークションで売れ残ったか、はたまたオークショニアの
魔の手から逃げ出したのか……どちらにせよ、行く当てなどないだろうし
蔵馬にも梅流にも懐いている。
連れて行く理由はあっても、置いていく理由など、何処にもない。
 
「本当にふわふわだね、しろちゃん」
「しろちゃん?」
「うん!名前付けてあげたの!!蔵馬があたしに付けてくれたように、あたしも小馬さんに付けてあげたの!
 白いから、しろちゃん!!」
「……確かにぴったりではあるな」
ぴったりというか、安易というか……。
しかし、小馬はそれが気に入ったらしく、『しろちゃん』と呼んだ梅流に、
「ミーミー!」
と、ちゃんと返事を返した。


「「いたぞ!!」」