参・盗賊妖怪・猪八戒 2 〜西の森〜

「ねえ、蔵馬。その妖怪さん、いっぱい人を殺しているから、『悪い事』してる人なの?」
「さあな〜。事実、おれも結構、殺してるから、何とも言えないな。
 まあ、取り合えず仏道に帰依する者のする事じゃないのは確かだけど」
自分のしてきた事を不思議に、そして何故かおかしく思って蔵馬は少し笑った。
こんな事を言って、笑って良いわけない。それは分かっていたが……。

朝、2人と1匹は『西の森』の中へ入った。
例の盗賊妖怪の事も気になるが、どうせ、ここを通らないと、先へは進めない。
道行く途中での、この会話は人に聞かれると非常にマズいのだが
妖怪の噂のせいか、人っ子1人いない。
ただ、噂は本当らしく、道の至る所に血が残っている。
血の量と、肉片の散乱の仕方を見ると、かなり手酷く殺られたようだ。
ただ、「死体を見せしめに」というのは、尾ひれが付いただけのようで
死体自体は滅多に見なかった。

「でも、その妖怪さん。いないね」
森に入って、3時間。確かに妖怪は現れなかった。
その間にも、蔵馬は妖怪について、色々考えていたが、全然纏まらなかった。

「妖怪が人間を殺す……喰らうため以外の、目的があるのか?」
「何か言った?蔵馬」
「いや、何でもない。それより、梅流。妖怪に会っても、前に出るなよ。
 戦いはおれがするから」
「大丈夫だよ。あたし結構強いんだよ!」
「そうかもしれないけど、相手がどんな奴かも分からないのに……」
「見て見て!ほら!」

梅流は耳の後ろ辺りから、小さな爪楊枝のようなものを取り出した。
「何?それ」
「えっとね。これを、ぎゅ〜っと力を入れて持ったら……」

ビュンッ

爪楊枝が一気に、2mほどの長い如意棒になった。
「ね!?」
「……一体、どういう仕掛けなんだ?」
「分かんない。昨日、頭掻いてたら出てきたの。それで今みたいに弄ってたら
 伸びたの。それで、『伸びろ!!』って言ったら……」

ドカ――――――ンッ

梅流が言い終わる前に、如意棒は10m以上伸びに伸びて
真上の木々を薙ぎ倒し、ようやく若葉をつけたような枝を真2つにして
更に伸び続けていった。
「こんな風に伸びるんだよ!」
伸び続ける如意棒を片手に、ニッコリしながら、説明する梅流。
しろはパニックになって逃げ回っていた。

呆気にとられて、呆然と眺めていた蔵馬だったが、はっと我に返り、
「め、め、梅流!!止めて!!止めて!!」
「はあーい。縮んで!!」
梅流の声に従って、どんどん縮んでいった。最後には、爪楊枝に戻った。

「め、梅流……それ、慣れるまで、あんまり使わないでね」
「うん!!」
前にもやった事があるだけあってか、梅流は暢気なものだった。
が、蔵馬はかなりびっくりしたようだった。


森に僅かだが、光が差し込み始めた時。
かなり大きいが、平べったいので座り易そうな岩を見つけたので
2人と1匹はゆったりと腰掛け、昼御飯を食べていた。
ふっと思い出したように、梅流が聞いた。

「そういえば、蔵馬は武器とかないの?」
「ああ、あるよ。三蔵法師っていうのは敵が多いものだからね。
 武器なしで旅するなんて、自殺行為だ」
「ふ〜ん。ね、武器って、どんなの?」
「これ」

蔵馬はすっと髪の中へ手を入れた。
取り出したのは、1輪の真っ赤な薔薇。
「綺麗〜。でも、これどうやって使うの?」
くんくんと匂いを嗅ぎながら、薔薇を指で突付く梅流。

「こうやるんだ……はっ!!」
「どうしたの?蔵馬?」
「梅流!!しろ!!伏せろ!!!」

バッと梅流の頭を地面に押し付け、しろを抱えて、蔵馬も屈んだ。
「いたた……蔵馬?どうし……」

梅流が言い終わるより早く、2人と1匹が座っていた石は粉々に砕け散っていた。